今昔物語
今は昔、死の渕からの生還を果たしたコーチがいた。
前述で登場したやっかいなお母さんの子供渋谷孝行君がその人だ。大学に通いながら塩釜FCのコーチをしていた孝行君は、監督と親交があった仙台の清水内科外科を訪れ体調の不良を訴えた。清水先生は、入院体制をやめようとしていた矢先で入院最後の患者として孝行君を受け入れ検査の結果悪性リンパ腫と診断された。大学病院に転院し治療が開始されたが、余命半年と診断され、家族の動揺ははかりしれないものがあった。
清水先生は漢方薬の勉強をされており、抗ガン剤治療に負けない漢方薬を中国を訪れ研究され、孝行君の支えになり一緒に戦ってくださった。
孝行君も……。今は結婚し、家族と一緒に明るい家庭を築いて、家業の工務店の跡取りとして仕事に励んでいる。本人が悪性リンパ腫をガンとうたがわなかった事、生きたいという気力、病院で生まれた小さな恋、何よりも漢方薬の大きな力。いろいろな要素が孝行君にあらたな命を吹き込んだのだ。
癌とは思えないくらい体重は落ちず、髪の毛は抜けずいつも明るい笑顔をふりまえていた孝行君。笑顔も、体重も、今も変わらない。