今昔物語

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その22

今は昔、悲しい出来事がいくつもあった。

教え子に先立たれる事、それも原因がわからず生命の灯が消えていった事を知らされた時の空しさは、言葉には言い表わせない。これまで交通事故で亡くなった教え子が二人、自殺者が三人、練習中に心臓麻痺で亡くなった者が一人いた。
その中の一人、高校卒業後、何年か続けて大晦日になると、それも夜中に電話を掛けてきたTがいた。事故を起こして泣きついて来たり、喧嘩をしてトラブルを起こし、仲裁を頼んで来たりで、面倒ばかり掛けられたが何か憎めないキャラクターだった。貧しい少年時代を過ごし淋しい思いをしてきたのか、小学生の頃は放課後になると、監督の車に乗って(その頃まだ実家にいた監督は家業の精肉店を手伝っていた)配達の手伝いをしていた。
将来を期待されていた選手だったが、ある時期からサッカーを離れ、徐々に音信不通になっていった。そして突然訃報を知らされた。自殺という一番つらい知らせだった。
子供の頃の様に何もして上げられなかった悔しさと、苦しい時に相談に乗って上げられる環境を作ってやれなかった苛立ち、そして何よりもサッカーを通して鍛えるべき意志の強さや、命の尊さを教えられなかった自分の不甲斐なさにただあ然とするだけだった。
他の二人の自殺者にも共通して言える事は、表面は強がって、虚栄心のかたまりにはなっているけれども気持ちのやさしさと心の弱さが幼い頃からあったということだ。これからこんな気持ちを持たない為にも、内面から強くなれる子供達を育てていきたいと思うと共に、悩みを打ち明けてもらえるようお互いの心を近距離に保っていたいと思う。
こんな事で泣くのはもうやめにしたい。