今昔物語

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その25

今は昔、顔色の悪い中学生がいた。

両親は、ある少年団の親の会のお世話を熱心に行っていた。ところが、ある日突然、離婚をした。私達には図り知れない理由があったに違いないのだけれど、母親の不倫もその原因の一つだった。子供達は父親と母親それぞれに分かれて引き取られたが、父親についていった中学生がある日我が家をたずねて来た。
当時お好み焼き店を営んでいた我が家には、いつも大勢の子供達が集まり、五十席程の店内はいつも活気にあふれていた。(ただ食いのお客様達)
ある中学校のサッカー部に所属していたその中学生は我が家にあまり顔を出すことはあまりなかったが、よくよくの思いで訪れたにちがいない。空腹と栄養不足で、蚊の泣くような声で挨拶をするのがやっとだった。
顔を見て、いろいろな事を察した私は、とにかく、好きなものを食べる事をすすめてみたが、遠慮とあまりの空腹で何を食べて良いか、どの位食べられるのか分からない状態だった。焼き肉、お好み焼きを少しずつ食べながら少しずつ家庭の事を話を始めた彼は、仕事やその他で不在がちな父親の事、ほとんど食事らしい食事をとっていない事などボソボソと語りつづけた。
数ヶ月一日一回我が家で食事をしていた中学生の音信が不通になってもう二十年以上になる。心にぽっかり穴があいてしまったことが、感謝する気持ちが、どこかに飛んでしまったのだろう。
今も、栄養が片寄っている子供達が多い。理由は様々だが、食生活に手抜きなお母さんに一言。楽しい食事で、会話がはずむ食事が子供の教育には一番。一生懸命手作りをしたおかずをおいしく食べることが、心の成長にもたらす影響は大きいよ。離婚したって、しっかりした優しい子は育てられる。ただし、食事をあなどるなかれ!