今昔物語
今は昔、東京の有名私立小学校のサッカー部との交流の機会があり期待に胸を膨らませながら訪れた。
ホームステイのため数家族が受け入れをしてくれることになり、学校脇の路上に迎えの車が続々やってきた。しかしこれがびっくりするくらい全て高級車。それもほとんどが外車。ベンツ、BMW、そして名前も知らないすごい車が平然と並んでいる。子供達も、その様子を見ただけで目を白黒。サッカー以前の事で圧倒された上に、またまた驚く事が……。
各家庭に分散し、宿泊した翌日、グラウンドに集まって来た子供達から出た言葉は「すげー、立派な家だぞー」「エレベーター降りたら、ドアだった」「レストランに食事をしに行ったら、「いつもの」って言うんだ。そしたらすげぇステーキだのが出てきて、びっくりした」
田舎者とは言っても、東北では仙台という都会が隣りだし、マンションや高級住宅に住んでいる家庭もあるけれど、それの比ではない位、リッチな家に泊めて頂き、歓迎されとにかく地に足がついていない。
私も少しは見栄をはろうと、清水の舞台から飛び降りたつもりでカードでコートを購入し、勇んで着て行ったが、校庭で待っていたお母さん達の装いは、数百万はするであろうという毛皮のコートが勢ぞろい。それ以来、遠征先への服装は軽装、そしてコートはグラウンドコート、とにかく楽に行こうと決めている。
ところで、遠征に行って、試合の中味が頭に入っていないのはこれが初めて。誰がどんなプレーをしたのか、勝ったのか負けたのかも全然覚えていない。今は三十代になった子供達も、この話になると試合の事は全然出てこない。よほど衝撃的な出来事だったに違いない。