今昔物語

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その30

今は昔、練習中にグラウンドの隅に置いていた着替えなど入ったバックの中から現金が無くなる事件が続いた。

初めは、所持金の覚え違いだろうと簡単に考えていたが、あまりにも続きすぎるため、隠れての犯人探しとなった。しかし罪を追及するだけの犯人探しではなく、誰が何の目的でやってしまったのか、その癖を治すためにはどうしたらよいかなどの解決のためである。
ある日、低学年の塩釜FC所属の子が、一万円札を持って「何かおごってやる」と皆に言ってまわっていた。以前からマークをしていた子だが、誰からもらったのか尋ねても「僕のお金」と言ってきかない。
不思議に思った監督は、低学年を練習させておいて高学年を集め聞いてみると、練習中に他人の財布から悪びれずに堂々とお金を持ち出していた事実を聞かされ、あ然としてしまった。子供達同士で解決しようと監督やコーチにその事を黙っていたが、一万円という額の大きさに小学生ではどうしようもない事態になっていたと言う。
早速親に連絡をとり、お金の出所を確かめると、お母さんの財布から無断で持ち出したものとわかった。これまでの事をすべて両親に話し、治すための根強い戦いがはじまった。別に貧しい家庭の子でもなく、小遣いをあげていなかったわけではないが、何かの原因でお金を使いたくなる病気にかかってしまったのだ。
まず初めに教えたのは、他人にされて嫌なことは、他人にしないということである。ある練習の時、監督はその子のジャージを目の前で黙って持って帰ろうとした。すると「それ俺の……」「だって、お前だって他人のカバンから黙ってお金をもって帰っただろう。だったら俺だってお前のもって帰ってもあいこだろう……」そこから延々皆の話合いが続いた。
少しは自分のした事の罪が理解出来たこの子は、二度としない事を誓ったが、六年生がいつも注意しながらその子の行動を見守り続け、完治まではしばらく時間がかかった。(この事を除けば素直な良い子である)
子供達から盗った金額は一人から百円程度だったが、金額の大小にかかわらず、物事の善悪を教えることに、サッカー仲間を利用できたことはその子にとって、幸いだったのかもしれない。今でも、似たような出来事はたまに起きることがある。叱る事は当然だが、早いうちに原因を探り、治療してあげたいものだ。